大館曲げわっぱの歴史 ー 武士の内職から、栗久が切り拓いた円錐形の技まで

栗久の曲げわっぱ弁当箱に盛られたご飯

「わたしの名品帖」で扱う秋田県大館市の「栗久」は、大館曲げわっぱの老舗として、お椀やリングカップ、弁当箱、ワインクーラーまで幅広いアイテムを手がけています。今回は、大館曲げわっぱという工芸そのものの歴史・産地・技術と、それを継いできた栗久の歩みをあわせてご紹介します。

大館曲げわっぱの歴史・成り立ち

曲げわっぱの起源には、山で働く木こりが杉の板を曲げ、桜の樹皮で留めた弁当箱を用いたという伝承があります。大館では江戸時代から曲げ物づくりが営まれ、武士の手内職としても発展していきました。

17世紀後半には、大館城主・佐竹西家が下級武士の副業として曲げ物づくりを奨励し、地域の産業へと発展したと伝えられています。技法の起源には諸説がありますが、秋田の豊かな森林資源と職人の技が結びつき、大館ならではの工芸として受け継がれてきました。

その後、大館曲げわっぱは昭和55年(1980年)、経済産業大臣指定の伝統的工芸品に指定されました。指定対象は「秋田県大館市に由来する製法により、同市で曲げ加工を施したもの」と定められています。

素材:秋田杉と山桜の皮

秋田杉の板を加工する栗久の職人

大館曲げわっぱは、伝統的に天然秋田杉を主要な材料としてきました。ただし、国有林の天然秋田杉の伐採・供給は2013年度から終了し、現在は造林杉の活用や適材の確保も重要な課題になっています。個々の製品の材種や原料の由来は、製品ごとに確認する必要があります。天然秋田杉は、木曽ヒノキ・青森ヒバと並び「日本三大美林」に数えられ、緻密で美しい木目が特徴です。寒冷な土地で長い年月をかけて育つ天然杉の性質を生かした、薄くてしなやかな器づくりが大館曲げわっぱの魅力の一つです。

薄く削いだ杉の板を熱湯で煮て柔らかくし、筒状に丸めて合わせ目を接着したあと、縫い留めに使うのが山桜の皮です。栗久では、木取り(板を薄く削る作業)などに機械を取り入れる一方で、塗りは職人が手作業で仕上げています。道具や機械の力を生かしながら、人の手が必要な工程に技術を注いでいます。

老舗・栗久の歩み

栗久の曲げわっぱのお椀

栗久は、栗盛家の初代・長十郎にはじまる家業です。屋号の「栗久」は、2代目・久吉の名前に由来します。2代目・3代目は養蚕の問屋を営んでおり、江戸時代後期から明治時代にかけて、4代目・5代目が養蚕に代わる商いとして、山桜の皮を使った「樺細工」の製作を始めました。

5代目・常治は樺細工の名工として知られ、昭和初期には、この樺細工の技術を生かして曲げわっぱの製作を始めました。そして昭和31年(1956年)の大館大火のあと、6代目・栗盛俊二氏が、地域の工芸を残すため栗久での曲げわっぱ作りを本格化させました。

栗盛俊二氏は昭和23年(1948年)に大館市に生まれ、昭和63年(1988年)に伝統工芸士に認定されました。平成18年(2006年)には秋田県の「秋田の名工」に選ばれ、平成23年(2011年)には厚生労働省の「現代の名工」に選ばれました。令和3年(2021年)には瑞宝単光章も受章しています。

栗久の技術革新:世界初とされる円錐形の曲げわっぱ

栗久の曲げわっぱ弁当箱

栗盛俊二氏が新たに生み出したのが、円錐形の曲げわっぱです。曲げわっぱは本来、まっすぐな板を筒状に曲げてつくるものですが、円錐形に仕上げることでスタッキング(重ね収納)ができるようになり、収納のしやすさにつながっています。この形が生まれたきっかけは、「食器を重ねて収納できず困る」という使い手の声でした。技術的な新しさだけでなく、毎日の暮らしにおける使いやすさを実現した点に価値があります。当店で扱う栗久のお椀やリングカップも、この技術を生かした円錐形のデザインです。

栗久のものづくりはデザインの面でも高く評価され、グッドデザイン賞の受賞作品は29点、ロングライフデザイン賞の受賞作品は9点にのぼります(派生商品を含む)。伝統の製法を守りながら、現代の暮らしに合う道具を作り続けている点が、栗久の大きな特徴といえます。

おわりに

大館曲げわっぱは、江戸時代から伝わる曲げ物の技法をルーツに持ちながら、昭和55年には国の伝統的工芸品に指定され、栗久のような老舗によって今日まで受け継がれてきました。養蚕問屋、樺細工、そして曲げわっぱへと商いの形を変えながら家業をつなぎ、6代目・栗盛俊二氏の代には円錐形という新しい技術も生み出しています。私たち「わたしの名品帖」が惹かれるのは、伝統技術が珍しいからという理由だけではありません。使う人の声に耳を傾け、素材の特性と職人の工夫を、収納性や手触り、日々の使い心地へと結びつけていることです。受け継ぐことと変えていくこと。その両方があってこそ、工芸は今の暮らしの中でも選ばれ続けるのだと思います。日々の器として、まずは一つ手にとって、その木の温もりを感じてみてはいかがでしょうか。

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参考:大館曲げわっぱの歴史・指定について 特許庁「地域団体商標」大館曲げわっぱ https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/chidan/shoukai/ichiran/5591586.html / 経済産業省東北経済産業局 伝統的工芸品一覧 https://www.tohoku.meti.go.jp/s_densan/pdf/japanese.pdf / 栗久公式サイト「こだわり」https://www.kurikyu.jp/about_kurikyuproduct/kodawari.html・「職人と技」https://www.kurikyu.jp/syokuninwaza/craftman.html / 大館曲げわっぱ協同組合「大館曲げわっぱとは」https://odate-magewappa.com/about/ / 林野庁「大館曲げわっぱの適材確保への取り組み」林野庁公式資料 / 週刊女性PRIME「栗久 栗盛俊二」https://www.jprime.jp/articles/-/11554

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